それでは具体的検討を始めましょう。
2世帯住宅のプランと面積(広さ)について、エスの作品事例をひも解きながら進めます。

 

エスの設計による2世帯住宅。間取りを検証

 
前回記事の「土地面積&建物面積の分布図」を再掲。

最近10年間で私が設計したおよそ30件の木造住宅の、土地面積と建物面積の比較分布図です。
この中から3つの事例をピックアップします。

事例A
都心としては少し広めの105㎡の土地。高さ制限も厳しくない。建ぺい率制限は60%、容積率制限は160%。都心エリアにつくった3階建ての2世帯住宅です。十分な広さのなかに特色あるプランを実現した事例です。
作品名は「Casa di Arpeggio・階層の家」。
→作品ページ
事例B
土地面積は割と広めの132㎡。建ぺい率制限40%、容積率制限は80%。高さ制限が厳しい場所にあります。
しかし、閑静な住居エリアにあり、近隣の土地も広ゆったりめ。高さ制限や建ぺい率制限が厳しいのは、その環境維持に一役買っています。そのため3階建てが不可能だったので、2階建て(ロフト付き)としました。「2L」とあるのは、2階建て+ロフトという意味。容積率80%までの制限(②)ですが、緩和措置によりロフト部分が容積率から除外。この詳細はまた別の機会に書きます。
作品名は「æsker-og-lys」。
→作品ページ
事例C
土地面積72㎡。高さ制限も厳しいエリア。建ぺい率制限50%、容積率制限100%。ふつうに考えると「2世帯住宅はムリ」という判定がおりそうな場所です。しかし、この事例Cこそが「半地下のある家。容積率制限以上の2世帯住宅をつくる」の主役です。
作品名は「暮らしの幾何学」。
→作品ページ

 
それぞれに特徴ある3つの事例です。
内容を詳しく見ていきましょう。
プライバシーに配慮して間取りをほんの少しアレンジして図式化してあります。ご了承ください。

3階建ての「事例A」

 
全体プランです。

これを親世帯と子世帯に分解してみましょう。

まず親世帯。

つぎに子世帯。

玄関は共有。
1階は親世帯、2階〜3階は子世帯として、2階にシェア室をつくっています。シェア室は基本的に子世帯の専有スペースですが、親世帯からもアクセスしやすいパブリック空間として設定しています。
最上階リビングルームは23帖の大空間です。

2階建て+ロフトの「事例B」

 
全体プランです。

同じように親世帯と子世帯に分解してみましょう。

親世帯のプラン。

子世帯のプラン。

玄関は分離。
1階は親世帯、2階は子世帯として、ロフトは子世帯専有の収納スペースです。全体として廊下など無駄なスペースはつくらずコンパクトに各機能と導線をまとめています。LDKは両世帯とも小さめの14帖。個室はベッドルームとして最小限の大きさです。

小さな土地の「事例C」

 
全体プラン。

親世帯と子世帯に分解してみましょう。

親世帯。

子世帯。

玄関も水回りも、すべて完全分離。
全階各部屋とも最小限の大きさで構成し、無駄をつくらず、2世帯がちゃんと暮らせるようにプランニングしています。

なぜ「子世帯面積×1.5=全体面積」なのか?

 
どれも前回の記事での検証の通り、建物面積は100㎡以上。
大中小の3パターンですが、2世帯住宅の規模設定がよく分かる3事例だと思います。

では、それぞれ上の図で親世帯と子世帯の面積を比べてみてくだい。
いかがでしょう。
どれも親世帯の面積は子世帯のおよそ1/2になっています。
つまり「子世帯面積×1.5=全体面積」となります。

親世帯の面積が子世帯の半分になる理由を整理しましょう。

* 条件の限られた土地で、出来るだけムダのない方法で最大限の効果を得る。それが大前提。
* 家族の構成人数が違う。子世帯は「夫婦+子=3〜4人」が平均的人数。一方、親世帯は「祖父&祖母=1〜2人」。
* 2世帯住宅建設にあたり、親世帯の過去の荷物を思い切って処分していただくことが多い。つまり収納室が小さめになる。
* 親世帯の「お風呂は小さめで可」。じつは、都内の高齢者はお風呂をスポーツジムで済ませてしまうケースが多いのです。家ではシャワーだけで十分。ジムのお風呂でゆっくりします!というアクティブなご高齢者が多い。(介護が必要になった場合のケースはまた別問題。これはまた改めて論じます。)

 
そして、もうひとつの理由。

* 将来、親世帯住宅を別用途につかうことを想定するため。

 
建設後、数十年たって祖父祖母が他界してしまったとき、住み手のいなくなった空間。
そこを将来、例えば「子世帯の子(つまり親世帯の孫)が自活する住居にする」。あるいは「貸室としてアパート用途にする」「事業用(英語教室や事務所など)に転用する」と、様々な可能性が考えられます。
その想定に対し、前もって親世帯の面積は適度なサイズに設定しておくことがポイント。
もちろん、祖父祖母にはゆったりと暮らしていただきたい。しかし、将来のことを考えておくことも同時に重要なのです。

この分析から、

「2世帯住宅は単世帯住宅の1.5倍」

..というのが「都内でつくる2世帯住宅」としてひとつのセオリーであると結論づけることが可能なようです。

しかし私が2世帯住宅を設計する際、「2世帯住宅=単世帯住宅×1.5」を前提ルールにすることはありません。あくまでも、ご要望を詳しくヒアリングし、自由な発想を積み重ねた結果の「1.5倍」であることにご注意ください。

さて、条件の厳しい土地で、この「1.5倍」をどうやって実現させるか?
引き続き検討を進めていきます。


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