チケトケスケッチ
都心の住宅地。
住み心地の良さそうな南向きのコンパクトな土地に、小さな家を設計しています。
その名は、「チトケトハット」。


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とっても小さくて、
飾り気のない、シンプルで素朴な家。
でも、シンプルだからこそ、
豊かな生活が生まれるはずだ。
成長していく家族が住むためには、ちょっと小さいかもしれない。
でも、小さいからこそ、
家族はいろんな場面を経験して大きくなっていくはずだ。
素朴な小屋のような家。
時間とともに風化して色あせない、
むしろ色濃く強く存在していく未来の家。
この家は、腕のいい職人がつくった小さな楽器のような「家」だ。
楽器は、じぶんで勝手に音を出したりはしない。
演奏する人がいて、それを聴いてくれる人がいて、楽器は音を出すことができる。
かすかに聴き取れるくらいの音からはじまって、
すこしづつ音が形になっていく。
そして、長い年月をかさねて演奏しつづけ、その音に深みが加わっていく。
立派なコンサートホールじゃなくて、
たとえば、座り心地のいい椅子の置かれたリビングルームで開かれる、こじんまりとしたコンサート。
多くの人たちのためじゃなくて、家族のための音楽会。
チトケトハットは、
小さな家、小さな楽器だ。
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「チトケトハット」は、北海道出身の若いお父さんとお母さん、そして2人の小学生の男の子のための家です。
東京の都心住宅地。交通量の多い幹線道路から、数十メートル入った場所につくられます。
僕は、設計依頼をいただいて、しばらくの間、なんとなく「北海道らしさ」を再現しようとしていました。家族の記憶にある「北海道」を新しい家のモチーフにしようとしてたのです。
けれど、家族と会って何度も話をしていくうちに、むかしの「記憶」を手がかりにするだけではなくて、今、現在、そしてこれからつくられる未来をもっと大切にすることを考えるようになりました。
でも、この場所は、言ってみれば何の変哲もない、ごくふつうの東京の住宅地です。
ここで、「何」を手がかりにして、「何」をテーマにして「デザイン」すればいいのか?
施主家族から要望としてお聞きしていたのは、「飾り気のない、シンプルな家」「自分たちでセルフビルドできる家」「時間とともに味のでてくる家」ということ。
施主家族と僕は、時間をかけてたくさんの話し合いをしました。そして、単純なプランだけれど、何度も何度も描き直してみたりしました。それは、無駄を削ぎ落とし、大切なものを見つけていく、という作業でした。
そして時間をかけていくうちに、「小さなアコースティック楽器のような家」というモチーフが、僕らの中で共有できるようになってきたのです。
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「チトケトハット」という名前。
どういう意味なの?と聞かれても、困ってしまいます。
じつは意味なんてないんです。
「チトケトハット」というのは、具体的に何かを表現しているわけではありません。
何も意味を持たない、ただの「音」です。
たとえば、チトケトハットがたつ小さな場所に立って、耳を澄ますと、いろんな音が聴こえてきます。
幹線道路を走る車の音。
近くの公園で遊ぶ子どもたちの声。
まわりの家々から聞こえる、生活音。
ざわざわと風に揺れる葉音。
鳥の鳴き声…
そして、もっと耳を澄ませてみると、足下の土の中から、小さな生物たちの活動する音が聴こえてくるような気がしてきます。
チトキテトクチテ、ツコタトペテコタ、トトテトコトポクタタコト….
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「ずっとここにある音」と、新しくできる家が奏でる「新しい音」が出会って生まれる、ここだけの音楽。
けっして豪華で立派な家じゃない、素朴で飾り気のない家。
けれどそっと耳を澄ませてみれば、素敵な美しい音楽が聴こえてくるような家。
そんな家をめざして、工事ははじまったばかり。
完成は、8月ごろの予定です。
じりじりとした夏の音につつまれているころですね。

(初出:OPEN-G 日記・2014年4月)

▶作品ページ
【チトケトハット】
ロフト・囲まれたテラス・都会の小さな木造3階住居